日本の家庭では、玄関で靴を脱いでから家の中に入るのが当たり前になっています。
でもよく考えてみると、「なぜ靴を脱ぐのか?」と聞かれると、明確な理由を説明できない人も多いかもしれません。
さらに、海外では靴のまま家の中に入る国もたくさんあります。
そう聞くと、「日本だけが特別なの?」と不思議に思う人もいるのではないでしょうか。
実はこの習慣には、日本の気候や住まいのつくり、そして文化や考え方の違いが大きく関係しているのです。
この記事では、日本で靴を脱ぐ理由やその背景、海外の事情との違いなどをやさしくご紹介します。
文化の違いを知ることで、「なぜそうなったのか」がもっとおもしろく感じられるはずです。
日本ではなぜ靴を脱ぐのが当たり前なの?
日本の家に入るときに靴を脱ぐのは、床をきれいに保ちたいという気持ちや、室内でリラックスするためという理由があります。
また、「家に入る=くつろぐ空間に入る」という意識が強い日本では、靴を脱ぐことで気持ちの切り替えができるとも言われています。
清潔さを保つため
外を歩いた靴には、土やほこり、雨の日なら泥がついていることもあります。
そのまま家の中を歩くと、床が汚れてしまい、掃除が大変になるだけでなく、家の中の空気もよごれてしまうかもしれません。
日本では昔から「家の中は清潔であるべき」という考えが根づいていて、玄関で靴を脱ぐことで室内と屋外を分けるようになっています。
快適に過ごしやすくするため
日本の伝統的な住まいには、畳や木の床があります。
畳はやわらかくて裸足や靴下で歩くのが心地よいですが、靴で踏むと傷みやすくなってしまいます。
また、日本では座ったり寝転んだりして床で過ごすことが多いため、床がきれいであることが大切です。
靴を脱ぐことで、くつろげる環境を保ちやすくなるというわけです。
その習慣はいつから?歴史と背景を簡単に紹介
日本で靴を脱ぐ習慣は、とても古くから続いている生活文化のひとつです。
では、いつごろからそのようになったのでしょうか?
昔の日本の住まいと“上がり框(かまち)”
日本の伝統的な家には、「上がり框(かまち)」という段差があります。
これは、家の外と中を分ける役目をしていて、「ここから先はきれいにしましょうね」という合図のようなものです。
すでに奈良時代や平安時代の住居でも、室内は履物を脱いで生活していたことがわかっています。
このことは、国立国会図書館の調査レファレンスサービスにも記載があり、弥生時代から日本人は室内で履物を脱ぐ文化を持っていたと考えられています。
国立国会図書館 調査レファレンス「日本人が履物を脱ぐ習慣」
靴文化がない=靴を脱ぐのが自然だった
もともと日本では、草履やわらじなど足をむき出しにした履き物が使われており、足元が汚れる=すぐに脱ぐ、というのが自然な流れでした。
そのため、玄関で履物を脱ぐことは「床を清潔に保つ」だけでなく、「外と内をしっかり分ける」という文化にもつながっています。
日常的に床に座ったり、布団を敷いて寝たりという暮らし方も、靴を脱ぐ習慣が定着した背景になっているのです。
海外ではどうなの?靴のまま生活する国々の事情
「日本では靴を脱ぐのが当たり前」でも、世界を見渡せば、靴を履いたまま家の中で過ごす国もたくさんあります。
ではなぜ、国によってこんなにも違いがあるのでしょうか?
アメリカ・イギリスでは「脱がない」のが一般的
たとえば、アメリカやイギリスなどでは、靴を履いたまま家の中で過ごすのが普通です。
これは、もともと住宅の構造が「カーペット敷き」であったり、「床で過ごす」文化があまりなかったりすることが理由のひとつとされています。
また、「玄関で靴を脱ぐ」という習慣がないため、お客さんも靴のまま家にあがるのが自然です。
中には「靴を脱ぐのは失礼」と思っている人もいるほどです。
外と内を分ける意識と住まいのつくりの違い
日本では昔から、玄関という場所が「外」と「内」をしっかり分ける境界として大切にされてきました。
一方、欧米の多くの国々では、玄関と部屋の間に明確な区切りがない住宅も多く、「家の中=靴のままで過ごす場所」という感覚が一般的です。
また、椅子やベッドで過ごすスタイルが中心で、床に直接座ることが少ないため、靴を脱ぐ必要性をあまり感じないのです。
このように、空間の使い方や建築のつくりが、靴を脱ぐかどうかという文化の違いに大きく影響していると考えられます。
日本人の“靴を脱ぐ習慣”が持つ意味とは?
日本で靴を脱ぐことは、単に「床を汚さないため」だけではありません。
そこには、人と人との関わり方や、住まいに対する思いが込められているとも言えます。
靴を脱ぐことで気持ちを切り替える
玄関で靴を脱ぐと、「外の顔」と「家の顔」が切り替わる感覚があります。
外では緊張していた気持ちも、家に帰って靴を脱ぐことでリラックスできる。
これはまるで、家が“安心できる場所”であるという意識を表しているようです。
家族やゲストを大切にする気持ちの表れ
また、靴を脱いで入るということは、「この空間は大事にされている場所」というサインでもあります。
お客さんを迎えるときに「どうぞおあがりください」と声をかけるのも、歓迎の気持ちを込めた文化的な表現のひとつです。
靴を脱ぐという行動は、家を清潔に保つだけでなく、人との距離感や気遣いにもつながっているのです。
また、日本の住宅構造や気候的な事情も、靴を脱ぐ習慣と深く結びついています。
たとえば、日本のように高温多湿な気候では、外の汚れや湿気を家の中に持ち込むと、カビや臭いの原因になります。
こうした背景から、「室内を清潔で快適な空間に保ちたい」という思いが強く、靴を脱ぐことが自然と根づいてきたと考えられます。
住宅メーカーなどもこの点を紹介しており、以下のような資料に詳しく説明されています。
WOODTEC(建材メーカー)「靴を脱ぐ文化とフローリング」
まとめ|文化の違いを知るともっと暮らしが面白くなる
日本では玄関で靴を脱ぐのが当たり前。
でも、それが当たり前ではない国もあるという事実を知ると、「どうしてこういう習慣になったんだろう?」と考えるきっかけになります。
靴を脱ぐことで家を清潔に保つ・気持ちを切り替える・家族との時間を大切にする、そんな日本の習慣には、目に見えないやさしさや思いやりが込められているのかもしれません。
一方で、海外にはその国ならではの暮らしの考え方があり、どれもその土地の歴史や生活スタイルに根ざしたものです。
正しさを比べるのではなく、「違いを知って、お互いを理解すること」がとても大切です。
これからもし誰かに「なんで日本では靴を脱ぐの?」と聞かれたら、「文化や気持ちの表れなんだよ」とやさしく答えてあげられるといいですね。